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暖かみと夢のあるIT活用:五洋建設
(第2回)


(第1回)
(第2回)


4. 技術紹介(2):津波防災対策システム

4-1 概要

次に紹介するのは「津波防災対策システム」である。

海に囲まれ、臨海部に人口と資産が集中しているわが国は、津波や高潮による被害を受けやすい。津波による人的被害を軽減するためには津波防護施設の整備が欠かせないが、防波堤や防潮堤などのハード面での整備は膨大なコストおよび時間が必要となる。このため、津波による地域ごとの危険度を示すハザードマップを整備し、それに基づいた避難計画など、ソフト面での対策も合わせて進めていく必要がある。
 しかし従来の津波ハザードマップでは、津波の到達時間や浸水の深さを提示するにとどまり、どの程度の人的被害が想定されるかは示されなかった。
 人的被害を推定するためには、地域住民の避難行動をシミュレーションすることが不可欠である。すでに地下街やビルにおける火災時の群衆行動を予測する技術は実用化されており、津波浸水時の住民の避難行動に適用できる避難シミュレーションソフトの開発が待たれていた。

五洋建設が山口大学工学部知能情報システム工学科(三浦房紀教授、瀧本浩一助教授)と共同開発した「避難行動シミュレーション」は、人々が津波から逃れる動きを再現するソフトウェアである。
 すでに構築されている「津波浸水シミュレーション」から津波浸水エリアなどの災害情報を受け取り、これに人間の行動心理・地域性・避難時の歩行速度などの設定条件を加え、さらに地理情報システム(GIS)の位置情報および時間情報を活用して、当該地域の地図上を住民がどのように避難するか再現し、その結果から避難する際の課題を抽出することができる。
 これによって、従来のハザードマップでは困難だった現実的な避難計画の立案や、具体的な津波防災施設の整備や拡充について検討することができるようになった。

4-2 特色

五洋建設は、すでに東北大学付属災害制御研究センター(今村文彦教授)と共同で、「GISを活用した津波防災事業の定量的な評価方法」を発表している。
 これは、「津波浸水シミュレーション」の結果から、GIS上で整理した津波浸水領域の家財や事業資産などの被害額を評価し、その被害額と津波防災事業の整備コストから、費用対効果を分析し、事業評価に活用するものである。
 上記のシステムに今回開発した「避難行動シミュレーション」を組み合わせることで、「被災時に人がどのように逃げるか」をシミュレートし、人的被害が起こる原因をより詳細に分析できる。これによって今後の津波防災施設の整備などハード面での対策はもちろん、避難行動計画といったソフト面での防災計画も具体的・効果的な形で提案できるようになった。

図9 津波防災都市の提案システム

図9 津波防災都市の提案システム

4-3 システム

まず、「津波浸水シミュレーション」で、津波そのものの物理的なシミュレーションを行う。
 これによって、津波の到達時間や場所による浸水の深さなど、地域の物理的な被害の状況を予測することができる。この結果が、「避難行動シミュレーション」および「GISによる資産被害の評価システム」に渡され、それぞれのシミュレーションを行う際の基本データとなる。

図10 津波浸水シミュレーション 図11 避難行動シミュレーション

(画像をクリックすると「津波浸水シミュレーション」が動画で見られます。:961KB)

図10 津波浸水シミュレーション

(画像をクリックすると「避難行動シミュレーション」が動画で見られます。:1.29MB)

図11 避難行動シミュレーション


「避難行動シミュレーション」では、「津波浸水シミュレーション」で得られた津波浸水エリアなどの災害情報をインプットデータとして受け取り、これに人間の行動心理や地域性および避難時の歩行速度などの設定条件を加えて、人々が津波から「いかに逃れるか」をシミュレートすることができる。動画では左上の避難場所に大勢の人が避難する様子が見られるが、右下には避難の遅れにより津波に飲み込まれる人々がいることが分かる。

GISによる位置情報と時間情報を活用し、被災地域の地図上を住民が避難する様子が刻々と画面に示される。これによって現実的な避難ルートや人的被害が起こりやすい場所などが確認できるため、避難誘導の手法や一時的な待避場所の検討など、具体的な防災対策を検討することができる。
 画面上には逃げ遅れる住民など生々しい状態も表示されるが、防災教育に活用すれば危機意識の向上に役立つことだろう。

避難時の歩行速度は、水中で歩行する実験を行って算出している。
 「津波浸水シミュレーション」がはじき出した浸水時の水の深さと流れの速さが、避難者の歩行速度に与える影響を判断し、よりリアルな避難状況を再現することができる。

また、住民の被災時の行動は、以下の避難パラメータを設定してシミュレートしている。

[住民行動についてのモデリング] [地域性についてのモデリング]
◇避難者モデルの設定   ◇津波の多来襲地域など
  ⇒避難する場所を知っている人     ⇒危機意識が高い
    ⇒避難する場所を知らない人       ⇒危機意識が低い
  ◇避難行動     ◇観光地であることなど
    ⇒避難場所へ       ⇒避難場所を知らない人も多い
    (避難場所を知っている人の場合)
      ⇒避難場所案内看板がある
    ⇒周りの人が向かう方へ 又は探索歩行         
    (避難場所を知らない人の場合)
       
    ⇒高い場所へ        
    (避難場所を知らない人の浸水時)
       
  ◇人の性格        
    ⇒災害状況に対して        
    →冷静な判断をする人        
      →あわてた判断をする人        
    ⇒環境の異変に対して        
      →敏感な人        
      →鈍感な人        
  ◇避難時の歩行速度        
  ◇避難を開始する判断        
    ⇒大きな揺れを感じた段階        
    ⇒津波警報が発令された段階        
    ⇒避難勧告が発令された段階        

上記のパラメータは、対象地域の住民へのアンケートを行って条件を設定する。必要に応じて条件を追加し、さらに精度の高いシミュレーションを行うこともできる。
 避難場所を認識しているかどうか、避難を開始するタイミングが早いか遅いか、といった、「住民の意識」をシミュレーションに反映できるため、地域住民への説明会などでは、視覚的で訴求力のある啓蒙ツールとして活用することができるだろう。

「GISによる資産被害の評価システム」では、避難行動シミュレーションと同様に、「津波浸水シミュレーション」から受け取った浸水エリアなどの災害情報を元に、GISで整理した浸水領域の家屋・家財資産や事業資産などの被害額を推定することができる。

図12 資産被害の評価システム

図12 資産被害の評価システム

津波によって発生する資産被害額を算出することにより、津波防災事業の整備コストとの費用対効果の分析ができる。
 「避難行動シミュレーション」との組み合わせで、人的・資産的な被害状況を総合的に判断し、地域の防災対策により貢献することができるだろう。

4-4 まとめ

港湾施設に強い五洋建設であるが、「津波浸水シミュレーション」で得られた物理的な災害情報を、「避難行動シミュレーション」および「GISによる資産被害の評価システム」といった2つのシミュレーションによって活用する発想に驚かされた。
 人的資産をはじめ各種資産の被害について高精度な予測を行うことで、効果的な防災施設の建設や耐震補強について現実的な対策を検討することができ、あわせて二次的な被災原因となりうる施設のリニューアル提案などを含めた、詳細なハード面での対策を進めることができるとのことである。
 また、地域による津波の危険度や避難経路について、学校や家庭での防災教育に活用したり、ハザードマップの作成や住民説明会などの合意形成の場に活用したりするといった、ソフト面での効果も期待できる。特に「避難行動シミュレーション」は津波から逃れる人々の避難状況を視覚的に確認できるため、地域住民それぞれの防災意識の定着に大きく貢献することだろう。

あとがき

以上、株式会社五洋建設のIT化について述べた。
 ご紹介した「動体位置管理システム」および「津波防災対策システム」は、いずれも従来からあるシステムに、新たな技術を加えて進化させたものである。この五洋建設の応用力、くだけたいい方をすれば「頓知」のような発想力に、強い魅力を感じた。
 コンピューターやネットワークを使って、事務処理の簡略化やスピードアップを図ることは、いわゆるIT化の重要な側面に違いない。しかし五洋建設のIT活用には、そういったオーソドックスなIT化だけでなく、既存のシステムを活用しつつさらにそれを飛躍させていく「着想」がある。
 もちろんそれは、新しいモノを作り出す技術力に裏打ちされてこその進化であるが、その根底にあるのは「顧客や社会のニーズに対し、実直に応える」ための着想であろう。「企業を取り巻く社会の変化に対して常に進取の気概を持って挑戦する。」という経営方針が、五洋建設の社風として深く根付いていると感じた。
 「在庫管理が楽になったらいいな」、「津波のとき、ひとりでも多くの人を助けたい」、そうした希望に、答えを見いだすための技術。
 五洋建設が提示するそうした技術の奥には、「どうやったら人が喜ぶか」という着想が染み込んでいる。それが巨大な移動式人工島であっても、モニターに映るフォークリフトの軌跡であっても、底を流れる意識はおそらく同じであろう。
 今回の取材を通して、クールに捉えられがちな「IT化」という言葉の中に、暖かみのある夢を感じることができたことを申し添えておきたい。

 

(インタビュアー (株)ブレーン・トラスト;2005年8月記)
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