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国家防衛の志を抱く若者が集う防衛大学校
(第2回)


(第1回)
(第2回)


3.建設環境工学科(旧土木工学科)

建設環境工学科(Civil and Environmental Engineering)に進学してくるのは陸上要員が多く、卒業後は自衛隊における技術職域である施設科部隊(いわゆる工兵)に進むのが一般的であるが、戦闘部隊の指揮官としての道を選択する人も多いそうである。施設科部隊はこれまでカンボディアでのPKO活動やイラク復興支援活動など、国際貢献の任務のあたる自衛隊の中軸部隊として活躍しているが、その部隊指揮官の多くは建設環境学科の卒業生である。土木の知識や考え方は、補給や段取りの計画、地形・地質・海象・気象などの自然条件と、地元の人々への配慮というようなセンスを磨くことになり、どのような職種に進もうと役立つはずだとの立場から、頑張って講義を聴くようにと古屋教授は言っておられるのだそうだ。これには訳があって、防大生は躾が厳しくされているので礼儀正しく、茶髪、ピアス、授業中の私語や携帯電話の使用は無いのであるが授業中によく眠り、これが本校の昔からの最大の悩みとなっているからである。この原因の一つには前述したように肉体的にしごかれまくっているから、疲れていることにあるのかも知れないが、将来の自衛隊を背負う防大生が授業中によく居眠りをしているというのは、日本のトップシークレットかも知れないとのことであった。

3-1 建設環境工学科の概要

建設環境工学科の教育目標は、学生が将来、土木工学に関わる問題に遭遇した際、工学的に合理的な思考力と判断力をもって解決できる能力を養成することに置かれ、教育方針の3本柱として(a) 基本概念や原理、基礎知識を徹底的に教授する、(b) (a)で得た内容を、実験・実習・演習によって体得する、(c) 工事現場や施設の見学によって工学の応用を学ぶが謳われている。
 この学科は構造系、土系、水・環境系の3つの系に分かれている。構造系には3研究室があって、「土石流に対する防災に関する研究」、「衝突/爆発に耐える構造物の開発」、「地震防災に関する研究」が行われている。土系と水・環境系にはそれぞれ2研究室があって、土系では「地盤や海岸の環境汚染に関する研究」、「土の物性試験法に関する研究」、「盛土工法に関する研究」が行われ、水・環境系では「津波に関する研究」、「河川の洪水対策に関する研究」、「海岸線の浸食に関する研究」が行われている。 これに伴って教育研究設備と実験設備も充実しており、以下に示すように多くの装置がある。

表2 教育研究のテーマと設備・装置

研究室
研究テーマ
教育研究設備と装置
構造系
(3研究室)
・土石流に対する防災に関する研究
・衝突/爆発に耐える構造物の開発
・地震防災に関する研究
・大型衝撃実験施設(時計塔内)
・垂直高速荷重載荷装置
・水平高速荷重載荷装置
・水平衝突実験装置
・超高速衝突実験施設
  (火薬発射式、高圧空気式)
土 系
(2研究室)
・地盤や海岸の環境汚染に関する研究
・土の物性試験法に関する研究
・盛土工法に関する研究
・透水試験装置
・小型精密三軸装置
・蛍光X線分析装置
水・環境系
(2研究室)
・津波に関する研究
・河川の洪水対策に関する研究
・海岸線の浸食に関する研究
・可変勾配水路
・二次元造波水槽
・振動流発生水槽

3-2 耐衝撃工学研究室

この研究室の教授であられるのが大野先生である。先生の略歴を下の表に示すように、生粋の防大出身者である。

大野友則教授

大野友則教授

E-Mail ohno@nda.ac.jp
学 歴 1973年 防衛大学校(土木工学門)卒業
1978年 防衛大学校理工学研究科地球工学専門卒業
学 位 工学博士 1987年3月
エネルギー論的考察に基づく構造物の耐震安全性に関する研究
職 歴 1986年4月 防衛大学校講師
1989年10月   同 助教授
1995年4月   同 教授
専門分野 衝撃工学,耐震工学

この研究室では土木・建築分野における衝撃問題に関するもの、具体的には自然災害時に発生する衝撃的な荷重の作用についての研究を行っている。衝撃荷重とは一般に10,000分の1〜100分の1秒という、極めて短い時間に荷重が作用した時のことをいう。一瞬にして衝撃荷重が構造物に作用すると静的荷重下(ゆっくりと荷重を与える場合)における挙動とはずいぶん異なる挙動を示すことがわかっている。したがって、静的荷重に対して安全に設計されている構造物が、衝撃荷重に対して安全である保証は必ずしもないのである。このような背景から研究室では世界に一つ、防大にしかない落錘式大型衝撃試験装置を使用して、衝撃外力を受ける鉄筋コンクリート部材やコンクリート材料の衝撃挙動や安全性について研究している。

以下に、研究室で検討した衝撃問題の2の事例を紹介しよう。

(1) 世界貿易センター(WTC)の崩壊にともなう周辺建物の崩壊に関する考察

WTCに航空機が衝突した映像はまさに衝撃的であり、記憶に新しいものである。衝突によるダメージに加え、ビル内部の火災により骨組みが熔け、ビル上部があたかも落下衝突するように残存した下部構造に損傷を与えて崩壊が進行していった。一方、WTCの崩落だけでなく周辺のビルも多くのダメージを受けたが、第7ビルもその一つである。ツインタワーから100mも離れているにも関わらず、1階部分の柱が圧壊してしまった。 この破壊の原因についていろいろと検討した結果、WTC崩壊にともな う地盤の振動の影響が考えられた。そこで、防大の給水塔の中にある落錘式大型衝撃試験装置を用いて、この仮設を検証するための実験を行った。 この装置は名前のとおり重錘(鋼の塊)を所定の高さから自由落下させて、供試体に衝撃力を与えることを目的としており、時計台の高さを利 用して大きなエネルギーを作り出すことができる。例えば、重さ3tonの重錘を高さ2.5m(速度7m/s)から落下させると、直径60cm、高さ120cmのドラム缶のようなコンクリート塊でもあっさり割れてしまうのだそうだ。

落錘式大型衝撃試験装置   給水塔(衝撃試験装置)
     
図5 落錘式大型衝撃試験装置   大型衝撃試験装置の外観

実験室(その1)   実験室(その2)
     
実験室内部(その1:1階試験室)   実験室内部(その2:1階から上階へ抜けるガードレール)
実験室(その3)   荷重装置
     
実験室内部(その3:ガイドレールを下から見上げた)   3トン重鎮(3分割したところ)

落錘式大型衝撃試験装置は、高さ50mの給水塔の内部に設置されている。この試験装置は最大荷重3tonの重錘を最大落下高28mの所から、最大衝突速度24m/sec(84km/h)でガイドレールに沿って自由落下させ、試験で発生する衝撃力を緩和するために、衝撃緩衝用ゴム支承で支えられている、衝撃吸収ベット上に設置した試験体に衝撃力を加えるものである。この種の実験装置としては世界最大の規模を誇っている。

実験は縮尺を1/100とした模型によって行った。まず、上部構造は重さ1tonの重錘でモデル化し、この重錘をモルタル(セメントと砂を水で混ぜて固めたもの)板を積み重ねて作製したビル模型に、4m/sの衝突速度で落下させた。計測項目は、ビル模型から0.5、1.0、1.75m離れた位置の加速度である(実際の距離に換算すると、WTCから50、100、175m離れた位置に相当する)。下図は衝突直後の加速度の変動を示した実験結果である。これによれば、実際に壊れた第7ビルでは、約10Gもの加速度が10秒間続いていたことになる。阪神大震災で記録された最大加速度は1Gにも満たなかったことを考えると、第7ビルに対してはいかに大きな加速度が発生したかが理解できる。すなわち、この大きな縦振動が第7ビルを襲い、一階部分が崩壊したことが十分に考えられる結果となった。

WTCビル崩壊模擬試験結果

図6 WTCビル崩壊模擬試験結果

日本は災害大国であることに加え、近年ではテロによる衝突や爆発などの脅威が増大する傾向にあることから、構造物の破壊を防ぐためには衝撃荷重に耐える構造物を作る設計法(耐衝撃設計法)が必要である。今後、上記の衝撃試験装置を活用して有効な実験を数多く行い、耐衝撃設計法を確立していきたいとのことである。

(2) 高所から落下する物体による衝突の危険性

上記に紹介した米国ニューヨーク世界貿易センタービルの崩壊原因の実験検証が、テレビのニュース番組で紹介されたことで、他に類似の大規模実験装置がないこともあって、事件・事故の落下試験を求められることも多くなった。その一つとして、高層マンションから物体が落下したときに、下にいた人はどの程度の衝撃力を受けるかを実験した事例を紹介しよう。
 平成17(2005)年4月20日に高層マンション27階(地上77m) のベランダから、78歳の老女が木製の植木鉢台など、色々な物を投げ落として殺人未遂容疑で逮捕されたという事件が起きた。幸い人身事故にはならなかったが、高所から落下する物体による衝撃力の大きさと恐怖について実験によって確認するよう、防大に対してテレビ取材の依頼が相次いだそうである。
 事件での実際の高さは77mであるが、如何に世界最大の規模を誇る実験装置といえども落下高さが23メートルしかとれないため、実験では水の入ったPETボトル、ゴルフボール、植木鉢、鉢置き台、コーヒー空瓶などを23mの高さから落下させて、計測した衝突時の衝撃力を77メートルからの条件に換算した。例えば下の図は、高さ77mから重さ760gの植木鉢を硬い地面上に落としたときの衝撃力を示したものであるが、衝突した瞬間(0.005秒以内)に1トンの衝撃力が発生していることがわかる。 もし植木鉢が人に当たっていたら、大変なことになることが分かるであろう。

植木鉢落下衝突時の衝撃力−時間関係

図7 植木鉢落下衝突時の衝撃力−時間関係

ここで紹介した耐衝撃工学研究室の研究成果はほんの一部であり、水平衝撃力載荷装置、中速度高圧載荷装置、超高速飛翔体発射装置を使った実験を行い、多くの論文を発表されている。

・水平衝撃力載荷装置

質量150kgの衝突体を最大速度20m/s(約70km/h)で水平方向に衝突させることができる。ガードフェンスへの車両衝突、防波堤ケーソン壁への消波ブロックの衝突、土石流を受ける砂防構造物の挙動などの模型実験に適している。

・中速度高圧載荷装置(最大載荷力1000kN)
・高速変形負荷装置(最大載荷力500kN)

アムスラー式載荷試験機の高速版で、最大4m/sの等速度で供試体に載荷することができる。この試験装置を使って、材料や部材の動的耐力を調べている。本実験装置には、引張試験装置、3軸圧縮装置を設置して、高速引張試験、高速3軸圧縮試験を行なうこともできる。また、高速変形負荷装置には、突き上げ試験装置を設置して、大型直下地震時に発生する衝撃的上下動を再現することもできる。

超高速飛翔体発射装置

質量100g〜400gの飛翔体を最大600m/sで発射することができる。本実験装置を用いて、高速衝突を受ける鋼・コンクリートの局部破壊現象を解明している。

水平衝撃力載荷装置   中速度高圧載荷装置・高速変形負荷装置   超高速飛翔体発射装置
         
水平衝撃力載荷装置   中速度高圧載荷装置
高速変形負荷装置
  超高速飛翔体発射装置

 

3-3 建設材料研究室(構造工学)

この研究室を率いているのは、今回の取材の世話をして頂いた古屋教授である。古屋教授は、27年間、本州四国連絡橋公団に在職して瀬戸内海を舞台にした長大吊橋の設計、工事や管理に従事した後、2000年に防大教授となった。

古屋信明教授

古屋信明教授

E-Mail furuya@nda.ac.jp
学 歴 1973年3月早稲田大学理工学部土木工学科卒業
学 位 博士(工学)1995年10月
長大吊橋アンカレイジの大深度基礎の設計・施工に関する研究
職 歴 1973年4月本州四国連絡橋公団に入社.
その後,大鳴門橋・明石海峡大橋の建設などに従事.
その間1988年〜90年,国際協力事業団技術協力専門家としてインドネシアに派遣.
2000年4月防衛大学校教授
専門分野 橋梁工学,土木材料学,土木施工法

研究室では、主として以下の3つのテーマについて取り組んでいる。
・鉄筋継手に関する研究
  合理的で経済的、しかも施工性に優れた鉄筋継手の開発に関する研究。
・鉄筋腐食速度に関する研究
  様々な劣化環境下におけるコンクリート(またはモルタル)中の鉄筋の腐食速度を捉えることを目的とした研究。
・PC梁の動的せん断に関する研究
  衝撃荷重を受けてせん断破壊するPC梁(プレストレストコンクリート梁)の破壊挙動、力学特性について研究。

研究に使っている主要機材は、以下のような装置である。

・5000kN圧縮試験装置、1000kN万能試験機

コンクリートの設計の基礎となる様々な材料試験を行なえる試験機。圧縮強度や引張強度の測定の他、簡単な構造実験も行なえる。

・凍結融解試験機

凍結と融解が繰り返されることによってコンクリートの組織がダメージを受ける凍結融解繰返し作用は、コンクリートの耐久性(どれだけ長持ちするか)を検討する上で重要な要素である。この装置は、凍結融解繰り返し作用によるコンクリートの劣化を短期間の内に促進させて試験することができる。最低温度- 18℃である。

・コンクリート複合劣化試験装置

コンクリート内部への炭酸ガスと塩化物イオンの浸入は、コンクリート中の鉄筋の腐食を引き起こし、構造物に深刻なダメージをもたらす。この装置は、炭酸ガス暴露と塩水噴霧をコンピュータ制御によって行なうことができ、自然条件よりも過酷な様々な劣化環境を人工的に作り出すことができる。

我々が訪問したときには、7月に頑張ったというPC梁の動的せん断実験とループ状鉄筋の継手実験で破壊された供試体の残骸が山積みにされていたのが、印象に残っている。

破壊されたPC梁(その1)   破壊されたPC梁(その2)
     
山積みされた実験後の供試体   上と下はせん断破壊したPC梁、中段はループ継手供試体

おわりに

取材を進めるに際して、大野教授には防大ならではの衝突破壊研究や弾丸の鉛公害に対する環境対策等、なかなか一般の大学では見ることも聞くこともできないことを教示して下さった。また、各種の実験装置も実際に稼働させたものを見せて頂いた。古屋教授には、夏の日差しの強い暑い季節にもかかわらず、落錘式大型衝撃試験装置をはじめ防大のキャンパスを案内して頂いた。
 多くの時間を割いてご説明頂いたにもかかわらず理解力の問題から、意図されていることを十分に伝えきれないばかりか、興味深いお話しのほんの一部しか紹介できなかったことを、両教授に心よりお詫び申し上げると共に、深く御礼申し上げる次第である。
 なお、本文執筆にあたっては、大野教授と古屋教授よりご提供頂いた資料、インターネットで得た情報を元に作成している。ご意見・ご指摘等ありましたら筆者までご連絡頂きたい。

(インタビュアー (株)ブレーン・トラスト丸山民夫;2005年9月記)
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