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電子自治体による行政サービスの高度化



(敬称略、お名前をクリックすると経歴等がご覧になれます。)


1 電子行政のあり方

私たちは、オープン・イノベーションを可能にする、新たなパラダイムを社会の持続的発展のために活用する構想を描かなければならない。そこで本論では、その機軸として電子政府・電子自治体があり、その基盤を社会全体で活用できるプラットフォームに発展させることが求められていることを述べようと思う。

電子政府・電子自治体の構想は、いまや世界各国で活発な動きがみられる。日本でもe-Japan戦略の中で重要な役割を果たしてきたし、それを引き継いだかたちのIT新改革戦略においても電子政府・電子自治体の構想は重要な課題として位置づけられている。そして重点施策として「世界一便利で効率的な電子行政」が掲げられ、2010年までにオンライン申請率50パーセントという目標が設定されている。私は、これまで電子政府・電子自治体の政策に関わってきたのだが、オンライン申請率50パーセントという目標は並大抵のことでは達成できない数値である。かなり大胆な政策立案が必要になるだろう。

ちなみに、政府「IT新改革戦略評価専門調査会」(会長:渡辺捷昭)のもとに設置された電子政府評価委員会(座長:須藤修)の『電子政府評価委員会平成18年度報告書』(2007年3月)では、電子行政の評価を行うに当たり、以下の3つの視点から電子行政の推進における課題を抽出し、その解決の方向性について検討している(同上4−5ページ参照)。

その3つの視点とは、まず第1に「利用者視点に立った<見える化>と成果主義」が挙げられている。報告書によれば、「世界一便利で効率的な電子行政」とはどのような状態なのかを利用者目線で「見える化」し、最終利用者である国民と企業等、そして施策実行者である行政官に対して、わかりやすく説明しなければならないとし、利用者視点の成果主義を貫き、現行の行政手続や行政業務を前提として評価するのではなく、最終利用者である国民と企業の側から電子政府の取組みを俯瞰的に評価し、評価(Check)が新たな方策・施策(Action)に確実に反映されるための仕組を整備し、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを恒常的に機能させることが必要である、と述べている。

第2の視点として、「フロントオフィス改革とバックオフィス改革の連動強化」が挙げられている。報告書によれば、フロントオフィスにおけるオンライン申請・届出等手続の利便性向上策と、バックオフィスにおける業務・システム最適化計画との連動が担保され、電子政府の全体最適が実質的に推進されているかどうかを厳正に評価することが必要である、と述べている。

そして最後の第3の視点として、「オンラインに係る共通基盤の整備・普及、府省内・府省間連携、国・地方連携、官民連携による全体最適の実現」が挙げられている。報告書によれば、施策ごと、事務事業ごとに異なる担当部局がそれぞれ整合性のない取組みを行った場合、本来なら共通に整備すべき基盤への重複投資を招き、国民・利用者の負担を増大し、真の効果をあげることはできない。このような事態を回避するためには、認証基盤、総合行政ネットワーク(LGWAN : Local Government Wide Area Network)などの標準型・共同型システムの利用推進を図るほか、情報システムのデータ標準化・コード体系の標準化や、共通基盤の整備・普及等が円滑かつ効果的に推進されているかどうかを評価することが必要である、と述べている。

すなわち、利用者の満足度を最重視した評価指標を策定し、その指標を最大化するように組織の最適化計画を立案すべきであり、そのためにも情報基盤形成とデータ標準化が重要になるというわけである。

2 次世代電子行政サービス基盤の構築

電子政府評価委員会の報告に応えるべく、政府は、2007年10月、次世代電子行政サービス基盤検討プロジェクトチーム(座長:須藤修)が組織された。ここでは、プロジェクトチームがまとめた次世代電子行政サービス基盤構想について、次世代電子行政サービス基盤検討プロジェクトチーム(座長:須藤修)『次世代電子行政サービス(eワンストップサービス)の実現に向けたグランドデザイン』(以下『グランドデザイン』と略記する)にもとづいて述べておこう。

『グランドデザイン』によれば、電子政府・電子自治体の取り組み状態は、国の手続の95%がオンライン化され、そしてオンラインで手続きができる状態だが、オンライン利用率はわずか15.3%(2008年3月時点)と低迷している現状にある。従来の縦割り行政のままでは利用者にとって利便性が低く、サービス提供側でも業務の効率化ができないため利用が促進されない状態である。そこで、IT新改革戦略(平成18年1月19日IT戦略本部決定)を踏まえた政策パッケージ(平成19年4月5日IT戦略本部決定)及び重点計画-2007(平成19年7月26日IT戦略本部決定)に基づき、「国民や企業にとって飛躍的に簡素で便利、かつ効率的な行政サービスの実現に向けて次世代電子行政サービス基盤等検討プロジェクトチーム(PT)が設置された」(『グランドデザイン』1ページ)。

そして、「国・地方の枠を超えた電子行政窓口サービスの展開を念頭に置き、フロントオフィスとバックオフィス、及びバックオフィス相互間の連携や民間手続との連携等を図ることにより、様々な行政手続を基本的にワンストップで簡便に行える次世代の電子行政サービス基盤の標準モデルを構築するものである」(同上)と主張している。北九州市や市川市で行われるアプリックの「地域情報プラットフォーム標準仕様」を用いた実証実験が重要な役割を果たすことになる。さらに次世代の電子行政サービス基盤は手続のワンストップサービスを提供するレベルの構築に止まらず、「その先には産・官・学が参加するネットワークを含むITやそれ以外の手法を有機的に結びつけて、日本社会におけるイノベーションや、国際競争力の強化をもたらす<国民本位の究極の電子社会の実現>を最終的な目標とするものであり、ワンストップサービスは<国民本位の究極の電子社会の実現>に向けたインフラ構築のための第一歩」(同上)にしなければならないと考えている。

次世代の電子行政は、行政における国民視点でのサービス提供というサービス向上への意識改革を行うという視点に立って、行政総体での全体最適化を意識した業務改革、行政ガバナンスを意識した透明性の確保などを前提としてはじめて実現できるものである。


図−1
図−1 次世代電子行政サービスの目標
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2−1 次世代行政サービスの目標

『グランドデザイン』では、次世代行政サービスの主要目標を4点にまとめている。

@ 利用者視点のサービス

A 行政事務の最適化

B 民間企業活動の活性化

C 国民と行政の信頼強化

以上の4点である(図−1参照)。

@利用者視点のサービスとは、行政の組織編成からサービスを構成するのではなく、電子政府評価委員会の意向を踏まえ、行政サービスの利用者である国民、企業の立場から、出生、就職、結婚、引越し、退職、死亡などのライフイベントに必要な手続きをまとめてワンストップでサービスを供給する体制を構築すべきというものである。

すなわち、「従来の行政サービスは申請主義に代表されるような行政の視点でのサービス提供であり、各行政機関や各部署が各々の業務を職員が容易に遂行できることを主眼にサービスを構築している。次世代電子行政サービスはこの行政視点でのサービス提供から国民や企業などの利用者の目線で簡素で便利な行政サービスの提供に大きく方向性を変えるものであり、例えば添付書類の削減や電子化、複数機関・複数回の訪問を不要に、統一化された申請様式などを実現することで達成する」(『グランドデザイン』2−3ページ)。

A行政事務最適化であるが、さまざまな省庁、自治体などのバックハウスのデータ連携、フロントオフィスとバックオフィスのデータ連携によってはじめてワンストップサービスは可能になり、行政事務の最適化が達成されることになる。「今後、ITを活用し、電子的処理を前提とした、かつ縦割り行政を排除した全体最適を目指した業務プロセスに変革する必要がある。もちろん、この業務プロセスの変革は利用者視点でのサービス提供を踏まえ、かつ複数機関において同様な業務が存在する場合には標準化や共同利用などの要素により効率化を図るものである。最適化された業務のシステム構築やシステムの適用性や拡張性を考慮して団体によってはSOA(Service Oriented Architecture)適用による構築も必要なところである。これらにより、行政事務の最適化の推進によりサービスレベルを向上しつつコスト削減でき、更なるサービス向上、新たなサービス創設、地域活性化への投資又は財政の健全化など機関で優先すべき分野への資源配分が可能となる」と『グランドデザイン』では述べられている(3ページ)。

B民間企業活動の活性化に関しては、次世代電子行政サービス基盤の構築により、行政や民間のさまざまなデータを有効に活用して官民連携による新たなITサービスを創造し、日本経済を支えてきたIT産業のイノベーションを活性化しようというものである。『グランドデザイン』では「次世代電子行政サービス基盤により行政と民間の情報やサービスの融合や産・官・学によるコラボレーションを可能とし、相互作用を活性化する新たなサービス創設の場とし、日本社会に知識を創造するイノベーションをもたらす。また、大量なデータ処理や情報の高度化のために産・官・学の協働により、世界における日本のプレゼンス向上の活動にも結びつけるものである」(『グランドデザイン』3ページ)と述べられている。

図−2
図−2 次世代電子行政サービス基盤のイメージ
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C国民と行政の信頼強化であるが、上述したように、次世代電子行政サービスは、行政や企業の保有する個人情報を積極的に活用して国民の福祉を向上しようというものである。このことは、国民と行政の信頼関係が確立していなければできないことである。自らの個人情報が、誰によって、どのように扱われているのか、すべて可視化し、不適切な行為がなされないようチェックできるようにしておかなければならない。そのような機能を情報システムに組み込むことが必要である。『グランドデザイン』では、「サービスの質の向上や業務の効率化による信頼強化だけではなく、行政サービス、行政管理の個人情報のアクセス履歴、業務プロセス、プロジェクト進捗などの見える化や透明性を確保し、信頼強化を深める」(3ページ)と述べられている。

図−2は、次世代電子行政サービスの概念図である。利用者はポータルにアクセスし、ID・パスワード、PKIなどの手段によって認証を受け、サービスを利用する。サービス利用にあたりパソコンや携帯電話を活用したWebによるサービス以外にも電話、双方向サービスの地上デジタルテレビ、情報KIOSK、役所などの総合窓口でもサービス利用できる環境を準備する。「ポータルにおけるワンストップサービスは、添付書類の削減や電子化、複数機関・複数回の訪問の不要、統一化された申請様式などを実現したサービスを提供し、情報提供サービスにおいては利用者が必要とする行政サービスや個人の行政管理情報についてサービス提供機関を意識することなく閲覧することのできるサービスも提供する」(『グランドデザイン』5ページ)。

図−3
図−3 次世代電子行政サービス実現のための工程
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行政業務の最適化に関して言えば、フロントオフィスとバックオフィスの連携やバックオフィス間の連携などのサービスがワンストップで提供されなければならない。これにより利用者は複数機関の申請において申請先を意識せずに一度に処理でき、手続のために必要な証明書などの添付書類を行政機関に請求する手続を省略することが可能になる。また、「行政機関や民間企業においても利用者や他の機関との間において電子的な情報にて処理することにより入力作業などの手間が省けるなどの業務効率性を高めることができる。各行政機関において電子的処理を原則とする業務プロセスへの移行であり、業務のBPRとシステムの標準化を進めることにより、サービスレベルの向上を図りつつコスト削減や業務の効率化を図る」(『グランドデザイン』6ページ)。

図−3を参照していただきたい。これは、次世代電子行政サービス実現の工程を示している。まず第1段階では、行政サービスの中から個人に関わる引越手続、企業の関与が大きい退職手続を標準モデルとして採用し、平成20年度はアプリックの協力を得て、北九州市と市川市で引越手続の実証実験を行い、その検証を行うことにしている。引越手続は行政手続の中では比較的多くの利用があり、添付書類の存在、複数機関への訪庁、行政だけではなく民間の手続も存在するなど多くの要素を網羅した手続であるため標準モデルとして選定された。第2段階では、制度面の整備や各種システムの設計・構築などワンストップ電子行政サービスの本格的開始に向けて環境整備を行うことになっている。そして第3段階は、ワンストップサービスの本格的な展開と利用を促進するための活動を行い、利用者の満足度向上と行政の効率化の最大化を図る段階である。

図−4
図−4 引っ越しワンストップの効果
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2−2 ライフイベント・ワンストップサービス

以下では、引越ワンストップサービスと退職ワンストップサービスに関する取組みについて述べておこう。

現在の引越手続きでは、最大で訪問機関は7箇所、13獣類の添付書類が必要だが、引越手続のワンストップ化が実現すれば、1度のオンライン申請と対面での厳格な本人確認が必要な転入先への1回の訪問にて、国、地方、民間の手続が完結するサービスになる。アプリックの「地域情報プラットフォーム標準仕様」の活用によって国・地方自治体のデータ連携を実現し、添付書類を削減し、電子化と転出元自治体への訪問を削減し、引越者本人の承諾にもとづいてバックオフィスでの国・地方における行政情報の共同利用を推進する。「手続をワンストップ化する等で、訪問機関は転入先の市町村のみとし、添付書類を全て省略することを目指す。これにより、官民あわせて約1,000億円のコスト削減効果を見込む」(『グランドデザイン』13ページ、図−4を参照)。

他方、退職手続きワンストップサービスの取組みについては、年金手続きなど今後十分な検討を踏まえて実証実験に移さなければならないが、図−5及び図−6のような方向で実現に向けて検討を行っている。現在の退職手続きでは、最大で訪問機関が6箇所以上、添付書類が15種類以上も必要であるが、退職手続きワンストップ化によって、訪問機関は失業等給付を受ける場合の公共職業安定所のみとし、添付書類を全て省略することが可能と考えている。これにより、官民あわせて約1,200億円のコスト削減効果が見込まれる。

図−5
図−5 退職ワンストップの方向性(企業)
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図−6
図−6 退職ワンストップの方向性(個人)
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3 データ疎結合

次世代電子行政サービス構想において最も重要と考えられるのは、ワンストップサービスの実現と業務最適化であるが、その実現のためにはバックオフィス間のデータ連携、バックオフィスとフロントオフィスのデータ連携が必要不可欠になる。図−7は、ワンストップサービスとデータ疎結合をどのように行うかを示している。

ワンストップサービスに関係する機関を網羅してバックオフィス連携できる基盤として、添付書類削減による利用者の利便性、バックオフィス業務の効率化、セキュリティの観点を考慮し、共同利用方式による各データベースのメタデータを管理する「行政情報の共同利用支援センター(仮称)」を構築する(開示・利用可能なデータそのものは、当該データがあるデータベースを保有する機関によって管理され、管理責任はそれぞれの機関にある)。行政機関は、他の行政機関が保有する行政情報を「行政情報の共同利用支援センター(仮称)」を介して参照できるようになる。これにより、申請者は、本来の目的ではない添付書類を取得するための手続きが不要になる。

図−7
図−7 ワンストップサービスとデータ疎結合
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「行政情報の共同利用支援センター(仮称)」構築に当たって特記すべきことは次のとおりである(『グランドデザイン』30−31ページを参照)。

・セキュリティリスクを考慮して、行政情報は一カ所に蓄積して集中管理せずに各機関で保有し、各機関が保有するデータベース間の連携は疎結合により実現する。「行政情報の共同利用支援センター(仮称)」は、どの行政情報がどの機関に保有されているかなどのメタデータのみ保有する。

・バックオフィス連携の仕組みを構築するだけで なく、現行業務の内容や流れを見直し最適化するBPR(Business Process Reengineering) を実施し、添付書類の省略を推進する。

・行政機関で個人情報を共同利用する際は、必ず申請者本人の同意を得る制度を設ける。

・利用者が自分の情報がいつ、どこからどこへ送付されたか確認できる仕組みを設ける。

・行政情報を共同利用する機関に対して、「行政情報の共同利用支援センター(仮称)」を介して得た行政情報の蓄積および目的外の利用を禁止する。

・総務省が共通基盤として提言した「地域情報プラットフォーム標準仕様」を活用し、自治体の業務システムとの連携を容易にしておく。

・バックオフィス連携ができない機関があった場合に備え、証明書の電子交付などの方策を盛り込み、ワンストップサービスを提供できるスキームを構築する。

私は、将来的には、行政情報データベースのみならず、民間企業のデータベースの疎結合によって新たなITサービスを創造し、共創的なオープン・イノベーションを推進できる基盤を整備すべきであると考えている。

日本政府は、現在、官民連携によるワンストップサービスを策定し、そのパイロット実験の準備と実行環境を整える作業を行っているのである。では、電子自治体と地域情報インフラはどのようにして整備が行われるべきであろうか。

4 電子自治体と地域情報プラットフォーム

電子自治体構想の目的あるいは社会に与える効果としては、まずICT分野における有効需要を創出することであろう。しかし、この構想はそれにとどまるものではない。ICTを有効にもちいることによって官僚主義的障壁を克服し、より効率的な行政組織を構築し、さらに住民サービスの質を高め、さらにはICTとネットワークを有効にもちいて地域振興に役立て、安全で安心な地域社会を構築しなければならない。このことは、地震などの災害発生時の迅速な対応も含めたより高度なリスク・マネジメントを可能ならしめるものでなければならない。

電子自治体の構想は、まずは情報システムを適切に導入することによって行政プロセスをより効率化し、透明性を拡大させること、すなわち業務と情報システムの全体最適化を含意している。そのためには全庁的に業務と情報システムの見直しを行わなければならない。今後どのようなプロセスで業務を変革していくのか、また、変革期のマネジメントをどのように行うかが重要になる。

電子自治体を構築するためには、財源や人材の不足を補う対策が必要になる。すでに財務会計、税務、人事などの基幹システムはほとんどの自治体で構築され、運用されている。そして庁内 LANに接続した端末をすべての職員が使い、グループウェアや職員ポータルの整備を終えた自治体も多数あるだろう。しかし、現在、重要な整備は、対外的な電子申請システムや電子調達システムを構築し、基幹システムと連携させることによって行政事務の効率化とサービスの質の向上を達成しなければならない。さらには納税処理のためのマルチペイメントシステムへの接続などの整備、認証システムの運用も必要である。このような全庁的な情報システムの構築によってはじめて効率的で透明性の高い行政業務を実現できるのである。しかしながら、これらのシステムをそれぞれの自治体が単独に整備し、運用することになると、膨大なコストと情報システムに関する高度な知見を有する人員を多数必要とする。そこでこれらのシステムを自治体が企業とともに共同整備し、共同で運用する構想を進める必要がある。すなわちデータセンターを利用した共同アウトソーシングの構想である。

図−8
図−8 地域情報プラットフォームのイメージ
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共同アウトソーシングによって複数の自治体による情報システムの共同利用が可能になる。しかしながら、それぞれの情報システムには複数の同一のソフトウェア・モジュールが存在する。それに対してSOA(Service Oriented Architecture)の考え方に基づいて構築された電子自治体では、共通機能をモジュール化し、より効率的かつ透明な行政システムを構築しようとするものである。SOAとは、業務プロセスの構成単位ないし共通機能に基づいて構築された再生利用可能なソフトウェア・モジュールをネットワーク上に公開し、それらをコントローラによって相互に連携させることによって情報システムを構築するものである。これによって重複投資を回避し、投資費用を大幅に削減することが可能になる(図−8を参照)。

電子自治体は、地域社会発展のために戦略的に構想することも可能である。SOAは、ソフトウェアをモジュール化し、そのモジュールをさまざまな用途に活用することが可能になるのだが、これは行政業務のみならず、公共施設、病院、学校、介護施設などの公共的機関の業務にも活用することができるし、データセンターを活用したSOAアウトソーシングは地域の中小企業の業務改善にも大いに資するだろう。

以上述べてきた電子自治体の構想は、行政システムのみならず、医療・福祉、教育などの機関が情報ファシリティと情報インフラを積極的に活用し、さらに地域の中小企業、各世帯が積極的に活用するようになれば、そのとき地域社会は大きく変貌を遂げることになろう。

高度に進展したデジタル経済において中小企業の多くは、B2B(企業間電子商取引)において顕著だが、B2C(対消費者電子商取引)においてもその対応を迫られている。認証や電子署名を使ったセキュリティ確保、高度なソフトウェアの整備・運用、日本版SOX法対応ストレージ(取引記録文書の保存)など、情報システムの構築・管理は、限られた資金と人員資源しかもたない中小企業にとっては深刻な問題になる。そこで地域経済、さらには地域社会の重要な担い手である地元の企業群のサーバ管理もデータセンターとASPを有効にもちいてSOAの構想を地域情報基盤として拡充すれば、デジタル経済への対応も容易になる。

さらには、データセンターとASPを地域の基盤として新たな情報システムを構築し、センサーネットワークと遠隔グリッド・コンピュータ基盤を連結させ、大量情報の高度なデータ分析にもとづいた予防医療健康サービス、セキュリティサービスなどさまざまな構想を実現できるならば、電子自治体の情報基盤を活かして新たな社会発展を構想することも不可能ではないだろう。

ちなみに、情報ネットワークは、データ・フローの効率的な管理を目的にしたものと非データ型の知識形成とコミュニケーションを目的とするものに大別することができる。そして両者は相互に作用し合い、融合する傾向にある。知識形成とコミュニケーションを目的にして形成された後者のネットワークは、その情報のフローを管理し、標準化するために前者のネットワークに対する依存度を高め、それにともない当初はデータ処理を主要目的としていた前者のネットワークが知識形成のための基盤になる。そのような相互作用を通して、データ管理のためのネットワークと知識形成のためのネットワークとが融合し、新たなビジネス・モデルと社会パラダイムの形成を促す可能性がある(その端緒としてグーグルのビジネス・モデルを想起することもできるだろう)。

5 センサーネットワーク地域予防医療と電子自治体

ちなみに、私は、九州大学の中島直樹准教授、井上創造准教授とともに、爆発的に増大する情報を適切に制御し、新たな社会システムをデザインするためにセンサーネットワークを活用した社会進化について理論的かつ実証的な研究を推進している(Sudoh, O., Inoue, S., Nakashima, N. [2008]を参照せよ)。社会の高齢化にともない予防医療の重要性が指摘されており、現在、福岡においてセンサーネットワークを活用した健康管理実証実験のテストベッド構築に取組んでいる。この研究は、健康を保つこと(1次予防)、および糖尿病、高血圧症、脂質異常症、肥満症など成人病の発病を抑止する(2次予防)ための予防医療体制を組織し、さらには、脳卒中や心筋梗塞、腎不全による透析などの重症合併症防止、病状軽減のために行われる3次予防を支援することを目的としている。ウェアラブル生体センサーと屋内の据え置きセンサーを用いて特定健診における保健指導者や患者や生体データを取得し、センサーネットワークを用いてデータをデータセンターに集積し、健診データや診療データとマッチさせ、匿名化した上で遠隔グリッド・コンピュータ基盤に連結させ、大量の身体運動に関するデータで高度な分析を行う。その結果である解析データを保健指導者や担当医に送信し、同時に健康・疾病管理事業の中核的技術であるクリティカルパスの更新に反映し、健康・疾病管理指導を支援しようというものである。

平成20年度は、2008年9月までに実験環境を確定すると同時に30人規模で予備実験を行った。今後順次規模を拡大し、本格実験では100名程度の参加者を見込んでいる。

図−9
図−9 福岡センサーネットワーク予防医療実験
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平成20年度は、複数のウエアラブルセンサーおよび複数の据え置きセンサーからの情報をZigBeeによるメッシュネットワークを通じて収集し、健診・保健指導情報とともに計算機クラスタにデータマイニングのジョブを投入し、マイニングを試行することを目標とする。実験の構成については図−9を参照されたい。

実験は、センサーの精度を高めるためと同時に課題を抽出するための予備実験と特定健診保健指導効果実証実験の被験者を対象とした本格実験の2段階としている。平成20年度の研究フィールドは、その背景技術として疾病管理事業「カルナ」が保持する保健指導技術を用いている。主としてコールセンターによる電話、メール、手紙及び直接面談などで収集する情報のうち、特に生活習慣に関わる運動などの行動の識別をセンサーデータを用いて自動的に行い、保健指導に応用する。

システムは、被験者の生体センサーの情報を集め、データベースに蓄積することがもっとも主要な機能である。データ解析を計算機クラスタ上でも行うようにするが、データ解析プログラムそのものについては、外部の物を用いる。本格実験では被験者に約10日間、起床から就寝までセンサーを装着してもらい、3軸加速度センサーでは20Hzのデータを蓄積するため、多量のデータが発生することになる。また、データセンターでは被験者の健診データや診療情報データを入力し、生体データとマッチした上でマイニングを行う。


●被験者:被験者は、ウエアラブルセンサーおよびZigBeeエンドデバイス(PDA+Bluetooth/ZigBee変換器)を装着し、さらに据え置きセンサーを用いて各種の生体データの測定を行う。Bluetooth/ZigBee変換器は常には持ち歩かなくても良いこととするが、個人のデスクなどPDAが接近しやすい位置に置いておけば、PDA内に蓄積したデータが自動的に送信される。

●生活環境:被験者は実験実施者の依頼により、時折食事の内容などをPDAに入力する。生活環境は平成20年度では職場環境とし、ZigBeeコーディネータとゲートウェイPCを置く。

●データ解析者:データ解析者は,コントロールサーバに集まったデータと健診・診療情報をマッチしてデータマイニングを行う。データマイニングのプログラムは、外部の物を使うか、データ解析者が自作する。このときに必要に応じて、計算機クラスタに計算ジョブを投入する。


この実証実験が一定の成果を収めることができたならば、実験をさらに拡大し、この研究基盤を活用してセンサーネットワークとASPを用いて産学連携による実用化を前提にした予防医療・健康サービスの大規模な実証実験に発展させたいと考えている。

すでに述べたように、現在、複数の自治体が共同で情報基盤を構築中である。さらに医療保険制度の改革によって医療費の増大を抑制するため予防医療を地域レベルで促進されようとしており、地域における医療・健康情報の管理も重視されている。その意味では、電子自治体構想にセンサーネットワーク基盤地域コミュニティ構想を組み込んで、地域社会進化を戦略的に構想することも不可能ではない。

先進的自治体が連合して推進しているSOAは、ソフトウェアをモジュール化し、そのモジュールをさまざまな用途に活用することが可能になるのだが、これは行政業務のみならず、さまざまな公共施設、病院、介護施設などの機関の業務にも活用することができる。そして地域の共同SOA構想に上述した地域健康管理センサーネットワークを接続すれば、この地域情報基盤は、行政システムのみならず、医療・福祉などの機関の経営最適化をもたらし、さらにはよりよい新たなサービスの創出をも可能にするだろう。

なお、今後は、産・官・学の連携を促しながら、センサーネットワーク、高度データマイニング、グリッド・コンピューティングを組み合わせたICT基盤を用いて,糖尿病を中心とした生活習慣病の予防に関する実証実験を推進し、その実験と連動させて、産・官・学・民の共創を活性化するセンサーネットワーク基盤地域コミュニティの形成とそのガバナンスに関する制度構想の研究を進めたい。


引用文献・参考資料――――――――――――――――――――

・後藤玲子・須藤修[2007]:「分権化時代の電子自治体と公共ガバナンス」『国際CIO学会ジャーナル』(国際CIO学会)Vol.1, pp.25-33.

・財団法人全国地域情報化推進協会(APPLIC)編[2008]:『地域情報プラットフォーム標準仕様書Ver.2.1』(財団法人全国地域情報化推進協会)

・次世代電子行政サービス基盤等検討プロジェクトチーム編[2008]:『次世代電子行政サービス(eワンストップサービス)の実現に向けたグランドデザイン』(内閣官房)

・須藤修[1995]:『複合的ネットワーク社会――情報テクノロジーと社会進化』有斐閣

・須藤修[2007]:「情報爆発時代の知識社会形成ガバナンス」『人工知能学会誌』(社団法人人工知能学会)第22巻第2号、pp.235-240.

・須藤修・後藤玲子・田中秀幸[2007] :「情報化と社会制度の構築に関する研究」『情報処理』第48巻第6号<通巻508号>(社団法人情報処理学会、2007年6月)pp.653−661.

・須藤修・後藤玲子・山本隆一・柴崎亮介[2008]:「情報爆発時代におけるオープン・イノベーションの活性化――ITによる社会基盤の刷新」『情報処理』(社団法人情報処理学会、2008年8月)第49巻第8号、pp.919−925.

・電子政府評価委員会[2007]:『電子政府評価委員会平成18年度報告書』(政府IT新改革戦略評価専門調査会)

・電子政府評価委員会[2008]:『電子政府評価委員会平成19年度報告書』(政府IT新改革戦略評価専門調査会)

・Bhatnager, S.[2004]: e-Government, SAGE Publishers

・Christensen, C. [1997]: The Innovator’s Dilemma : When New Technologies Cause Great Firms to Fail, Harvard Business School Press (玉田俊平太ほか訳[2001]:『イノベーションのジレンマ』翔泳社)

・Council on Competitiveness ed.,[2005]: Innovate America, Council on Competitiveness US.

・Sudoh, O. ed. [2005]: Digital Economy and Social Design, Springer-Verlag

・Sudoh, O., Inoue, S., Nakashima, N. [2008]: “eService Innovation and Sensor Based Healthcare”, in; Oya, M. et.al., eds. : Towards Sustainable Society on Ubiquitous Networks, Springer-Verlag, 1-14, 2008.

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